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代替の札の望みの効力は、
望みを唱えた人が、
それへの対価にと何かしらを封じて我慢を捧げた刻限と
同じだけの間だそうで。
我慢が中途半端だったなら望みの成就も中途半端なものになるものの、
念を込めた札を飲み込んだのが、
その身からポンと飛び出したなら、
ちゃんと我慢が出来ましたという目安になるのだそうで。
「どんなお願いでも、それへのどんな我慢でも、
1日が限度って設定になってるはずだから。」
満願成就かどうかは当人の感覚次第なことであり、
欲の深い人だと、これで成就なんて言えないと思うことも多々あろうが、
そこはそれ、そんな欲の深いことでどうしますかという罰ですよと、
それを課した人が諌めればよし。
「キミんとこは こういうものへまで諸行無常なんだね。」
「臨機応変と言ってよ。」
どっちにしたって…。(う〜ん)
今回の場合、ペトロさんが言うには、
『私が 声を封じていたのは1日なので。』
『あ、それは相当こらえたね。』
キミって、お喋りではないけれど ちょっと甘えん坊なところがあるから、
アンデレとか傍に居る人に話しかけずにはいられないじゃない、と。
さすがは師匠で、
そんな何げないところを ちゃんと把握しておいでのイエスだったのへ、
『…せんせえ。』
感動したっスと目許を潤ませた彼だったものの、
そのまま感に入っての抱擁へなだれ込みかけたのは、
やはりブッダ様に阻止された。
そういうお約束はともかくとして、
『じゃあ、今日一日だけのことなんだ。』
全てが一気に解決とは まだ言い難いものの、
とりあえず、明日には戻れると判って一安心。
やっとのこと、足が地についたような心地になれたと、
イエスが胸を撫で下ろし。
この状況のうち、
『イエス様が本当に女性になってしまったところだけは、
極力漏れないように取り計らいます。』
そこだけは天地神明に誓ってとまで言い張って、
毅然と帰っていったペトロだったが、
「…でも、
ペトロから見た“神”って
ウチの父さんなんだけどもな。」
こつこつこつ…という
凛々しくも勇ましい足音が聞こえなくなってから、
ああ思い出したと呟くように、
イエスがそんな一言を口にしたものだから。
「はは、そういや そうだね。」
思わずという苦笑をしたことで、
釈迦牟尼様もまた
ついつい終盤でちらりと披露した好戦的な気概を、
やっとのこと緩められたようであり。
「………。」
「……えっと。//////」
朝っぱらからのとんでもない騒動にも、
これでやっとの決着がついたとあって。
当事者二人でお顔を見あわせ合い、
何とも言えぬ心持ちに含羞みを咬みしめる。
蓋を開ければ何とも呆気ない事情ではあったれど、
そうと判るまでの逼迫ったらなかったし。
だからではあれ、
一番に何が大切かを図らずも吐露し合ったのが、
今になって ちと恥ずかしい。
いい大人だし、最聖という身だというに、
幼子みたいに駄々こねて。
でもね、今だから笑えるけれど。
この人と引き離されるなんてと思ったら、
それは哀しくなったのは本当だし。
どんな天罰が下ろうと、
そんなのイヤだと言ってくれたのが、
それは嬉しかったのも本当で。
ペトロと二人で向かい合う格好、
つまりは並んで座ってたそのままでいた彼らだが、
「……。」
イエスがゆっくりと横へ身を傾けて、
ブッダの肩口に自分の小さくなった肩をとんとぶつければ、
「……うん。」
何も言ってはないのにね。
ブッダが こくりと頷いて、
自分へちょっぴり凭れているイエスへ、
お顔を向けて淡く微笑む。
今から何しよっか
洗濯物は干したから、
キミはブログのチェックじゃないの?
今日はお休み。
おや
ちょっと意外なお返事に、
ブッダがわざわざ視線を向けて、
お返事というか説明を待てば、
「だって、
ブッダもジョギングお休みしたじゃない。」
だってという言い回しは、普段のイエスもよく使うけれど、
一回り小さくなった肩をすぼめ、上目遣いになって言うのは、
“それは狡くないかなぁ。/////////”
わ〜いvvと無邪気に甘えかかられるのは
もはや いつもの事だったけれど。
もうもう意地悪なんだからという含みもて、
恥ずかしそうに甘えられるというのは、
こんなにもじわりと来てドキドキするものだったかなぁと。
そういや、こういう素朴な初恋の味は
シッダールタ時代にもあんまり体験してはない彼なので、
となると、
無自覚のうちにイエス様へ炸裂させてるあれやこれやは、
やはり天性のものというしかなくて。
恋って不思議だし、最強なんだなぁ…。
◇◇◇
今から何をすると言っても中途半端な時間だし、
そういや月曜なので、
いつも行くデイリースーパーでお買い得商品が幾つかあるらしく。
ということで、いつも通りの行動を取ることとなり、
『お留守番は ヤだからね。』
チラシの検分を終えたブッダと見るや、
ぎゅうと二の腕へ抱きついて来たイエスだったのへ、
いやいや、そんなつもりはありませんてと。
却ってギョッとしたブッダ様、
“今日に限って、仕事熱心なセールスマンや勧誘の人が、
何人も何人も攻めて来たらと思うだけで落ち着けないったら。”
当人が待ってると言い出したらどうしよか、
何でも買ってあげるからと
それこそ子供相手のような誘い文句しか浮かばずだったそうで。
久々にいいお天気となっていた外へと繰り出し、
生活道路を抜け、時折 車も通る中通りをゆけば、
踏切の鐘の音が聞こえて来て、馴染みの商店街へと差しかかる。
昼前の書き入れどきだが、
溜まった洗濯物との奮戦にかかってらっしゃるお宅が多いか、
人通りは少ない方で。
通りに向いた側へショーウィンドウを連ねた並び、
時折 アーケードの隙間から陽が差す中を歩んでおれば。
「何か、何かなんだよなぁ。」
足のサイズもやや縮んだらしいので、
居回り用のサンダルでのお出掛けで。
店内の方が暗いと鏡のようになる大きなガラス窓。
そこへと映る自分たちを
物珍しげに、それからちょっと嬉しそうに
ちらちら見やっていたイエスだったものが。
ふと…何かに気づいたらしく
そこから徐々にご機嫌を傾しがせてしまい、
しまいにはそんな不満げな声を出すに至ってしまい。
「? 何それ。」
だからぁと、
すんなり通じないことへか、
それとも上手く言えない自分の語彙不足へか、
焦れたように口許を尖らせたヨシュア様いわく、
「ブッダはもっとこう、
いかにも美人なお姉さんへ変われたのに。」
胸だって大きかったし、
肌もしっとり柔らかそうで、
しかも内から光ってそうな色の白さはそのままで。
吸い込まれちゃいそうな甘い色香もあって、
でも、それって、
べちょっとした いやらしいのじゃあなくて。
知的っていうのかな、
折り目正しい慎しみもちゃんと備わってて、
洒落じゃあないけど お花みたいに華やかで。
「う…あ、えっと。///////」
確か、ほんの一瞬というか、
一度しか見せてはいない姿だというに。
そうまでちゃんと記憶していたイエスだというのへ、まずは照れた。
しかも、何だか随分と褒められていないか?
「…………イエスって胸は大きいほうが好みなんだ。///////」
赤くなってのしどろもどろ、
とはいえ、ここだけは聞き捨てならなかったからだろう、
そんなことを言い返すブッダへ、
「? だって男ってそうなんでしょう?」
だから忌々しいんじゃないかと、
イエスがあらためて、
ショーウィンドウに映り込んだ自分の胸元を見やる。
そもそもスレンダーな素地からの 転変であり女体化だから、
質量保存の原理(ことわり)の下、
こう変換されたのですよということなのか。
ウエストがややぶかぶかなジーンズは
以前にブッダが痩せたおりに買ったベルトで止めての、
裾は巻き上げた上で。
トップスは…これでもノーブラはいけなくないかという用心に(?)
タンクトップを重ね着ているが。
そんな心遣いをしたことさえ届かぬ ささやかな胸元なのが、
イエスにはどうにも納得が行かないらしく。
「…ブッダだってそうなんでしょう?」
「はい?」
だって、だからあんな姿に転変したんでしょ?
…ちょっと待って、あのねイエス。
今度はイエスの側がちょっぴり誤解しているようであり。
なりたい姿へ“変身”したんじゃないんだよと、
自分の肢体をそのまま女性変換しただけだということを、
何とか理解させようとするブッダであり。
「…今のイエスだって、
そういう格好での転変をしている訳なんだし。」
「だったら余計にむかつくっ 」
何で?
だって…/////
怒ったようにしか見えぬ、
挑むような目許になってたイエスだが。
口許がじわじわと、
そのまま嗚咽を零しそうなたわみようになりかかり、
…ああそっか、と
さっきからご機嫌が傾しいでいるのはそれでか、と。
やっと理解が及ぶと同時、
そこまで女性に成り切らずともと、
何とも面映ゆい気持ちが、
その胸のうちにて 桃の実みたいに甘く熟すのを感じつつ、
ほうという微熱に浮いた吐息を一つついたブッダ様。
「…可愛いよ? とっても。」
「〜〜〜〜。」
言ってあげなきゃ伝わらないこと、
きちんと言って差し上げる。
うら若き男子諸君は ついつい、
照れ臭いからとか判れよとか ずぼらをしてしまいがちなこと。
女子の皆さんだって 何となくでなら感じてる、
あんたたちより繊細で、大人で複雑なんだしね。
でもね、
独りよがりじゃないのかなって、
自惚れてんじゃないよと笑われないかなって
ヲトメな部分はいつだって怖がってもいるんだよ?
キミたちが
カノ女がこっち向いてないとイラってするのと同んなじに。
…というワケで、
「キミこそ、私がどうして
キミが女性として降臨した話へ
ムッとしたかが判ってないでしょ。」
「え?」
にっこり微笑って、それから“あのね”と、
こそこそと耳打ちしてゆくブッダであり。
身長差もあること、
背後のウィンドウへ片手をついての
ちょっぴり肩を丸く屈めて身を寄せ、
優しい声音で説いてゆき。
「……。////」
よほどのこと詳細にわたり、咬んで含めた言いようをしたものか、
随分と間のかかっていたお話は、でも、
「 〜〜〜。////////」
真顔に近かったイエスが、
それはゆっくり、でもはっきりと、
そのまま動画を投稿したくなるほどの 鮮明さと愛らしさで、
じわじわとお顔を赤くしてゆく様から察して、
かなり説得力があったよで。
そして この日を境に、
イエスさんの謎めいた恋人の噂に続き、
ブッダさんにも可愛らしいGFがいるらしいとの噂が
ご町内中にこっそり広まることとなるのであった。
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*うきうきデートの巻です。
やっぱ、せっかく女の子になったんだしねvv
とはいえ、私の描写では何も伝わらなくて、
キュートなイエスちゃんや、どぎまぎするブッダ様、
想像するのが大変でしょうね、すいません。
めーるふぉーむvv
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